| 特集 ”覆面 タイガー・マスク ” ”虎だ 虎だ お前は虎になるのだ....” ということで、この覆面をつけると虎になれる...かもですｗ。 タイガーマスクとは”虎の覆面”。そこで、虎の”覆面”を追いかけてみました。  |
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ラ空間文庫
第1回 2021年11月14日
辻なおき氏の作画は、写実的でありながら独自のデフォルメで自身の作風を確立していて、独特の味わいがある。
力強い線、優しいまなざし。作画全体に優しさがにじみ出ている。
「タイガーマスク」という作品の作画に抜擢されたのも、この作風が気に入られたからだと思う。
一方、虎の覆面を描くそのタッチは非常に写実的で、立体的だ。東映アニメを見て、原作に入っていくと、その写実性、立体感に少し違和感を覚えるかもしれない。
しかし、アニメ版は、アニメーションとして機能させなくてはならないので、細部を排して写実性を離れ、より抽象化して描く必要がある。
そこで、アニメ版は東映アニメの作画スタッフによって、東映テイストの作画へとアレンジされている。
逆に、このアニメ版から、立体的な商品なり、実物マスクを起こそうとすると、立体化への変換作業がうまくいかず、違和感のあるものになってしまう。
つまり、作画アレンジの過程で取り入れたデフォルメや細部の排除が3D化にミスマッチ、障害になるためである。
copyright(c) 東映、梶原一騎、辻なおき
第2回 2021年11月15日
来年2022年（令和4年）は寅年だ。虎の強い運気で、このサイトも安定期に入るだろうと思う。
それで、虎の覆面をもう一つ新調しようと思っている。
そういう流れもあって、この特集を組んでみているところなのだが、さて、原作の辻なおき氏作画「タイガーマスク」を入手した。
講談社コミックスから1994年に出版されたKCデラックス完全復刻版だ。
第1巻、タイガーマスク登場シーンを見ると、やはり覆面の構造は非常に立体的だ。
伊達直人の頭部の構造にフィットさせながら、口まわりも覆面から覗き人物の表情が垣間見れる構造になっている。
これは、アニメ版との大きな違いで、覆面の構造上、もっとも要になる部分である。
第1巻で若月ルリ子さんと出会うシーンがある。そこで、ルリ子さんはあっさり伊達直人であることを見破るわけだが、タイガーに漂う雰囲気と、覆面から垣間見える表情もそれを助けたかもしれない。
つまり、それほどに原作版にはリアリティーがあるということなのだ。
copyright(c) 梶原一騎、辻なおき
第3回 2021年11月16日
反則で戦うタイガーを応援する健太くん。その健太くんをルリ子さんが諭すシーンだ。このくだりはアニメ版でも感動のシーンで、声優”山口奈々さん”の名演が光るシーンだが、原作版のクオリティーも非常に高い。
Fig.からもわかるように覆面から覗く表情によってタイガーの心情が絶妙に表現されている。
タイガーを応援する健太くん。しつはタイガーも健太くんを応援している。
能面と同じように、覆面から覗く表情以上に、じつは覆面そのものにも表情がある。このあと、健太にエールを送るべく、タイガーは行動によってその心を表現する。アニメ同様、感動のシーンだ。
第4回 2021年11月18日
このシーンは、タイガーマスクが悪役から正統派レスラーに転向する転機になったシーンなので、タイガーの物語の中でも最も重要なシーンだと言える。
アニメ版が素晴らしいので、単純には比較できないが、原作版のクオリティーは非常に高い。
ここでも、タイガーの覆面のクオリティーにも注目していただきたい。
第5回 2021年11月18日
早乙女の無垢な願いが、タイガーの心を打つ。タイガーの心の中で本質的転換が起こる。炎となって燃え上がる。
このくだりは、例えば、映画『大魔神』で、無垢な乙女の心からの願いで魔人が立ち上がるあのシーンとオーバーラップする。
おそらく共通の価値観がそこにはある。思想的というより、宗教的といってもいいかもしれない。
つまりこれは、”梵天勧請”のあのシーンが根底にあるような気がする。
早乙女とは梵天である。
タイガーの物語の実に核心部分に、作者はこの思想的宗教的エッセンスを据えたのである。
(c)大映 『大魔神』
第6回 2021年11月21日
タイガー・マスクの物語は二種類ある。原作版とアニメシリーズだ。どちらも素晴らしい。優劣はつけがたい。どちらも非常に面白いので、この機会にまた楽しんでいただければと思う。
また、初めてといわれる方も、寅年を迎えるこの機会に、是非お勧めします。ただし、新作といわれる原作者の遺志を踏みにじるような作品もあるようなので、そういうのは無視していいと思います。
さて、虎の覆面である。原作辻なおき氏作画版は非常に立体的で、写実的である。
この写実性をいかにして生み出したのか。想像だが、作者は常に手元に虎のはく製を置いていたのではないだろうか。あらゆる角度から、虎の覆面は、見事なまでに立体的写実的である。
画家としての作画力も素晴らしい。このデッサン力、作画力なくして虎の覆面はあり得ない。
ストーリーが進むにつれて、その作画力も磨きがかかっていく。
人気漫画も、回を追うごとに当初の力のある作風から、よりシンプルに簡略化されていく傾向がある中にあって、作者の作画は、逆にその写実性、線の力はますます強くなっていく。
そして、当初はなかった虎の覆面にも、牙が与えられ、より凄みを増していく。しかし、あくまでそこには伊達直人本人の顔が存在し、その顔にフィットさせる形で、表情を描くことも怠らない。
この原作版こそ、虎の覆面のオリジナルなのだ。
第7回 2021年11月23日
ところで、この作品のタイトル「タイガー・マスク」だが、アニメ版では「タイガーマスク」、また原作版の復刻版表紙カバーの印刷などにはやはり「タイガーマスク」とある。
何のことかというと、”タイガー”と”マスク”の間に”・”の表記があるかないか、である。
この違いは一体何だろう。”・”の意味とは何だ。そも、それに意味はあるのか。
私は、原作者はやはり、そこに意味を込めて意図的にこの”・”を挿入しているのだと思う。
つまり、この物語で描かれているのは”タイガー”である伊達直人と”マスク”覆面についての物語である。
”タイガー”と”マスク”はそれぞれ別のものである。タイガーマスクは一個のキャラクターではあるけれども、そこには二重性が内在している。伊達直人という表の顔と、覆面に隠された裏の顔。昼の顔と夜の顔。
それは伊達直人（date.night）というネーミングにも直結する。
それだからして、伊達直人”タイガー”とこの覆面”マスク”との確執、苦悩がテーマとして物語の全編を通して描かれている。
伊達直人は何度もこの覆面から逃れようと苦悩する。そしてついに、原作版では”死”によってその覆面から解き放たれることになる。
ただ、いまはこの”タイガー”と”マスク”を区切る”・”は原作本編のみに残されてその痕跡を見るに過ぎない。そこを発見できる楽しさというのは、これは原作を読むことのできるものの特権である。
第8回 2021年11月27日
覆面「タイガー・マスク」。その覆面である。
辻なおき氏作画のタイガーの覆面も初期、中期、後期でそれなりの変遷がある。
初期、タイガー初登場シーンではその覆面はタイトに顔にフィットしている。虎のたてがみもハッキリとは描かれていない。
中後期では、虎の表情はより写実的だ。後期では、牙も与えられ、より凄みが増している。あらゆる角度から、写実的であり、立体的である。
トラの覆面：左から前期、中期、後期
この虎の覆面をいかにして描き出したのか、そこは謎なのだが、そのヒントが本編中にもあるので、それについて考えてみたい。
そのヒントとは、「上野動物園」である。
伊達直人が幼少時、ちびっこハウスの仲間と「上野動物園」を訪れるシーンがある。伊達直人はそこで、虎に出会い、インスピレーションを与えられる。
原作のこのストーリーを与えられた辻なおき氏が、その後とった行動とは。
「上野動物園」の虎は、1964年以来代々スマトラ・トラだそうだ。虎（トラ）にはいくつかの亜種があって、9つの亜種が知られている。どのトラも同じではない。体格、模様、たてがみの長さ、耳の大きさなど、亜種によって違ってくる。
上野動物園のトラ
トラの作画を描くとき、どのトラでもいいわけではなくそこにはモデルがある（いる）はずだ。
そこで、辻なおき氏は作品執筆中、上野動物園まで足繁く通って様々な表情、あらゆる角度からトラの作画、スケッチを試みたのではないだろうか。
このような観点で観たとき、先のトラのはく製の記述は誤りである。なぜなら、上野動物園のトラは、スマトラ・トラで、どこのトラかわからないはく製ではこの作画はあり得ないからだ。動物愛護の観点からも、そうあってほしくない。
辻なおき氏の作画の変遷を見ると、タイガー・マスクの覆面のモデルは、上野動物園のトラであっただろうと推測できる。
第9回 2021年11月30日
虎の覆面を引き継ぐもの。
タイガー・マスクの物語は二通りある。原作「タイガー・マスク」とアニメシリーズ「タイガーマスク」だ。
それぞれパラレルに進みながら、エンディングへ向かって二通りに分岐、ストーリーが展開されていく。どちらも素晴らしい。
原作版では、伊達直人はトラックに轢かれそうになった子供を助けようとして交通事故死する。
死ぬ間際、伊達直人は正体を知られまいと、ポケットにしまった虎の覆面をドブ川に投げ捨てて絶命する。
表通りを離れて、裏通りで誰にも気づかれないまま一人死んでいくその様は、非常にリアリティーがある。
おりしも、高度経済成長のさなか、命輝いていた小川も河川整備によってドブ川へと変貌していく。
その中へ沈んでいく虎の覆面は、消えていった無数の命と重なって見えて心を打つ。
死の直前、伊達直人の表情は苦しみから解き放たれたように涼やかで、そして非常に美しい。辻なおき氏渾身の一筆といえる。
タイガーマスクシリーズは、その後「タイガーマスク二世」（アニメ、漫画）、プロレス初代タイガーマスクとなって復活する。それぞれ人気で、大いに話題を呼んだ。
しかし、伊達直人はもう帰ってこないのだろうか。
時代は移り変わって、子供たちにランドセルが届けられるというニュースが入る。
どこの誰からか。「伊達直人」からだという。
伊達直人は、生きているのである。